第2回「グローバル人材とは?海外から見た日本と教育」【後編】

「未来の教育を語る」第2回のゲストは、英語講師からタレント活動まで幅広く活動するブルース・ヘンデルさんです!後編では日本とアメリカの学校の違いや、今後社会で求められるグローバル人材について語ります。(前篇はこちら

株式会社ビッグトゥリー

代表取締役 髙柳 希

「ディスカッション好き」が高じて起業

ブルース・ヘンデル

語学教師、ビジネスコンサルタント

アメリカ出身、英語を通して様々なビジネスを行っている

 


~忙しい日本の子ども達!受験や進路、違いについて~

ーー日本の学校では受験がありますが、これは海外も同じですか?

 

ブルース:受験といえば、アメリカには公立高校のための試験がありません。高校までは国が学費を出します。住む地域で学校が決まるんです。

 

高柳:受験しなくても公立高校に行けるんですね、私立はないんですか?

 

ブルース:私立もありますが、裕福な人や外国人がよく使いますね、特にフランス語やドイツ語を学ぶ場合は私立に行きます。アメリカ人は経済的に余裕があっても公立に行きます。公立に行っても教育が良いのです。

私の高校は公立ですが特に素晴らしい高校でした。車の運転免許の練習場やプラネタリウムもありました。ワシントン郊外にあり、政治家の子ども達も通っていましたし、先生たちも評価の高い人々でした。

 

高柳:プラネタリウム!?そうなると良い学校に行くために、転居する人がいるのではないですか?

 

ブルース:お金があればできますが、当然みんなはできませんね。結果的に自然と教育レベルが分かれます。そういう意味では不公平ですね。経済力と教育が比例します。

 

高柳:私の学生時代は部活も盛んでした。アメリカにも部活はありますか?

 

ブルース:部活はありますよ。でも日本と同じではないです。

日本の部活は少し極端に感じます。子ども達は必ず出席しなければならないし、週末や空いている時間を全部部活に使ってしまうでしょ。

今、私の子どもは塾へも行っていて夜の10時半ごろ帰ってきます。部活と塾でとっても帰りが遅い。これはアメリカではありえないですね。

大人でいえば仕事の残業も同じです。私の友人は「今日は遅くなった。8時半まで事務所にいたよ」というけど、日本で8時半なんて大したことないですよ。日本人は夜中まで働く人や毎日遅くなる人もいます。でもアメリカ人は大抵5時、6時に帰ります。

 

高柳:私にも夜8時半は遅いかな(笑)

 

ブルース:今は早く帰るように企業も変わってきていますね。でも、ひと昔はそれが当たり前でした。

 

高柳:そうですね。当たり前だし、終わってから飲みに行く人もいますね。

 

ブルース:この福岡に来た当時、私の仕事が終わるのは夜9時ごろでしたね。

 

高柳:大人はもちろんのこと、日本とアメリカでは中高生の生活スタイルが全然違うんですね。

 

ブルース:そうですね。アメリカはフリータイムが多いんです。フリーの時間で反抗期には良くないこともしますが、その経験から自分の性格、アイデンティティが成長します。私の場合はアウトドアスポーツが好きですから、自転車とかスキーとかをやっていました。

 

高柳:今は「インターネットをする」という子も多いのでは?

 

ブルース:そうです、最近はインターネットを使う子どもはたくさんいます。ネットがなかった時代は、ゲームセンターでもお金がかかりました。私たちはそんなお金がなかったし、すぐに飽きていました。

今の子どもたちはネットのゲームにハマってしまいます。無料だから何時間もやってしまう。これに関しては今のアメリカ人も日本人と同じかもしれません。これは世界共通ですね。

「休息や食事もとらず死ぬまでネットゲームをしていた」という韓国の男性のニュースにはほんとに驚きましたよ!

 

高柳:インターネットも使い方や限度がありますね。家族団らんの時間はどうなっていますか?

 

ブルース:私はファミリーの時間を大切にしていました。でも、今は5人全員がそろうことはとても難しいです。子どもたち3人とも受験生です。長男は勉強も遊びも忙しく、あまり家にいません。彼は自分の人生が決まっていて、友だちの方を家族よりも大切にします。

 

高柳:子どもたちへ「勉強しなさい」などと言いますか?

 

ブルース:そういうことを彼には言わなくていいですね。彼は自分のペースで好きなときに勉強します。時には一晩中勉強しています。彼はもっといい学校にも行けるはずですが、でもそこまでやりたくないようです。彼には彼が考える人生があるようですね。

それにいくら親の私が圧力をかけても聞く耳はありません(笑)

 

高柳:確かに、私もそうでしたよ(笑)その辺はどこの子どもたちにも共通なんですね。

 

~憶える教育から考える教育へ~

ーー海外と異なる日本の学校教育の特徴はどこでしょうか?

 

ブルース:日本の教育は、多くのことを“憶える”のが中心になっていると感じます。私の子どもたちが使う日本の教科書を見てもそう感じます。英語にしても「オリジナルの文章も作って練習しよう!」と誘うのですが、「必要ない、教科書の例題で十分」と言います。

これでは英語本来の意味に気づけません。子どもたちは学ぶ意味を分かっていない、試験を受けるだけで大丈夫だと思っているようです。

 

高柳:日本の教育でよく指摘されることですね。

 

ブルース:私はアメリカで実際に自分の人生で使うようなものを学んできました。新聞の情報について考えたりね。本当の意味を考えたり情報の正否を区別する、クリティカルシンキングを学びました。

これからの日本にもクリティカルシンキングはとても大切なことだと思います。周りが基準ではなく、自分が思っていることを深めて、自分は知らないという謙虚さから深く学ぼうとする姿勢です。

 

高柳:“謙虚”は日本の文化的なものでもあります。謙虚にはいろいろな捉え方がありますが、日本人の場合はそれを持ちすぎると自信も一緒になくなってしまう可能性があると思います。

 

ブルース:“少しの謙虚さを持つ”ということでしょうね。全てを謙虚にする必要はありません。適度な謙虚は人生へのチャレンジに必要なことです。

 

高柳:先生の接し方にも私は違いを感じます。私は高校の頃英語コースで、幸いにもカナダ人の先生がいろいろなテーマをくれました。

たとえば「貧しい国への資金や物資のサポートは本当に喜んでいるかどうか」や「黒人と白人の問題」など考える授業をしてくれました。とても素晴らしい先生です。

私は毎回アイデアを出し、レポートを書いたとき、先生に「クリエイティブ!」と言われたんです。

それがきっかけで私は考えたりアイデアを出すことがとても楽しくなりました。英語のテストはあまりよくなかったけど(笑)

 

ブルース:それは良い授業ですね!日本の教育にはそのようなクリエイティブはなかなかないですね。

 

高柳:正解を出して褒められたわけではありません。正解や不正解ではなく、私のアイデアを褒めてくれたんです。

日本は「正しい答えを出す」という教育が長年行われてきました。でも、社会やこれからの時代、何が正しいか決めることは難しいと感じます。

 

ブルース:何が正しいか、すべてはそのときのタイミングや状況で変わります。

 

高柳:そこへ正解を出し続けるっていうのは難しいですね。

 

 

 

 

 

~「違い」を当たり前に、グローバル社会で生きる~

ーーこれからの時代に必要なことは?

 

ブルース:これからの時代はグローバル社会です。日本国内だけで生きていくことは難しくなります。

 

高柳:「グローバル」とはよく聞きますが、それがどんな状態でどんな時代かはあまり共通認識がないのではないでしょうか。

 

ブルース:グローバルはとっても簡単です。地球がひとつの国。地図にある境界線は地球にはありません。

境界線があるのは私たちの頭の中です。地球で起こっていることはすべてつながっている。

たとえば、中国の工場が空気を悪くしたら風に乗って他国へ流れます。水を悪くすれば、その影響を受けた魚を別の国で食べる。

影響はそこだけではなく地球のあらゆるところへとつながっています。

それが地球という観点、つまり「グローバル」です。

 

高柳:私はグローバル化にひとつ懸念もあります。2年前、私はサンフランシスコへ行きました。とても楽しみでドキドキしながら行きました。

でも、セブンイレブン、ユニクロ、GAP・・・その風景は日本と一緒!これは当たり前ですが、グローバルになったからこそですよね。

 15年前にシアトルに行ったとき、まだ日本にはシアトルカフェやスターバックスがあまりなかったので、街を歩くだけでとっても楽しかった。今はどこにでもあります。ちょっと残念!

 

 

ーー「グローバル人材を目指す」などといいますが、グローバル人材とはどんな人だと思いますか?

 

ブルース:相手の文化や暮らし、生活様式を理解したり想像してコミュニケーションをとることが重要。そういうことができる人だと思います。

 

高柳:私が思うのはしっかりと伝えること。ビジネスでも「私はできません、これはお願いします」とはっきり言える。でも、相手が伝えてくることもしっかり聞く。そういうコミュニケーションは必要だと考えます。

「言わなくても分かるでしょう」のやり方では、グローバル人材としては難しい場面がたくさんあると思いますね。

 

ブルース:日本では教育、価値観がある程度統一されていて、その中で長年生活していると相手の行動は予測できる、理解できると考えてしまいます。でも、外国ではそういった考えが通じないことがほとんどです。

 

高柳:だから「分からない」をスタートに自己開示することが大事なんですね。

 

ブルース:そうですね。それから、いつも「こちらがいい、正しい」ではなくて「相手にもいいものがあるかもしれない」、そういう視点を持つことですね。

 

高柳:私は最近いった学校で、子どもたちとディスカッションする前に「"違う"ということをまず当たり前に楽しみましょう」といいます。

 

ブルース:日本語で「違う」には「ダメ」という意味もあるでしょう。日本は同じ言葉を使っています。だから、ネガティブな印象を持っている言葉なのかもしれません。「違う」を面白いと思うことは大切ですね。

 

高柳:「え、違うの?」ということを楽しむ。無理やり同じにならなくていいから、「何が違うか聞いてみよう!」ってディスカッションの授業をしています。そうすると、感想文で「違ってもいいんだって思うととても楽になった」と言われたりするんです。

 

ブルース:食事や交流、様々な場面で相手に合わせることができる日本人は多いですね。日本は、みんなが賛成するととてもすっきりする文化でしょ。アメリカ人やヨーロッパ人はその逆で賛成されないことを好みます。意見の衝突ですよ!

 

高柳:意見の衝突?それもそれで大変そう!

 

ブルース:大変だけど、多様性がアメリカの強さ、パワーです。たとえば、最初にインターネットオークションのアイデアを発表した人は、みんなに反対されました。「そんなことは誰もやらないよ!」「ネットの取引を信頼するのか!」と色々な反対があった。

でも、彼はそれらの意見に反して成功したんです。

 

高柳:私が思っているのは議論で意見をぶつけ合うのもいいけど、日本人が相手を思いやったり、少し自分が我慢して場を収める、これもいいポイントだと思っています。一方で、欧米の何かを一緒にやるために熱く議論するのも大事だと思っています。だから、これをミックスした教育をやりたいなと考えているんです。

 

ブルース:そうですね、バラバラすぎてもいけないし同じすぎてもいけない。

 

高柳:どうやったら両方を良いバランスできるか考えていて、ブルース先生はこの両方を知っているから、とても刺激をもらっています。

 

ブルース:まず、「意見を出す価値があるか」自分でよく考えることですね。関係ないところでは我慢した方がいい。

 

高柳:でも、フランスはまた違いますよね。

 

ブルース:フランス人は必ずすべて反論しますね。すべてを議論にしてしまう、右と左、真反対、それがフランスです。フランスに行くと病気になっちゃう日本人がいますね。

パリは想像の中では素敵な場所、幸せなイメージです。でも、実際向こうへ行ったら「どんでもない!」とがっかりする。極端に違うから日本人は特に影響されています。

 

高柳:パリのイメージはファッショナブルで芸術的で自由で…ってイメージだけど実際はめちゃくちゃ激しいというか、鋭い部分がありますね。私はこの「激しい議論」と「察する議論」のミックスの話をよくしますが、海外の人には賛同されますが、日本人にはあまりピンとこないんです。おそらく「激しい議論」はこわいイメージがあるのかもしれません。

 

~Dコートプログラムを体験~

Dコートのプログラムをブルース先生と一緒にやってみました!

ロープ、つめ切り、ペン・・・など様々な生活用品のカードを「生活に必要なもの順」で並べていきます。そのあと、それをさらに「サバイバルで必要な順」にすると?

 

 

ブルース:こういったカードを使って、1つの物事の答えや意見が場面によってガラリと変わってしまうということを議論するのは非常に面白いですね。私はこういったディスカッションが大好きです。

 

高柳:私も大好きです!(笑)

 

<次回 予告>

 

次回のゲストは喜多流能楽師 塩津圭介さんです。

若くして伝統芸能の世界で活躍する塩津先生と一緒に

「文化と教育」について語ります。

髙柳がお能を始めるきっかけになった方です!

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日本初!ディスカッションの教室「Dコート」

コミュニケーションが総合的に学べる教育プログラムです!

グローバル・政治・社会・哲学・自分・友だち、身近なことから社会のことまで幅広いテーマのディスカッションを通じて、豊かな視点や興味関心のアンテナを育みます!また、一人ひとりの個性を尊重し、「自分らしいコミュニケーション」を大切にしながら、総合的にコミュニケーション能力を高めることができます。これからの時代に必須のコミュニケーション能力をDコートで伸ばしませんか?