道端の石でも知育【前編】

【未来の教育を語る 】第11回のゲストは、木製玩具屋「つみきや」の原田圭悟さんです。前編は、おもちゃ選びのポイントについて語っていただきました。

㈱ビッグトゥリー

代表取締役 髙柳 希

大学在学中の2006年に起業。ディスカッション専門の教育会社として、企業研修や学校にて教育を行なう。2015年に小学生・中高生対象のディスカッションスクール「ディスカッションの学びの空間 Dコート」を開校。

つみきや

原田 圭悟

大学卒業後、食品メーカーに勤務。父親が創業した木製玩具店「つみきや」に2015年より従事。ヨーロッパの木のおもちゃやアナログのゲームの販売を続けると共に、近年ではつみきやオリジナルの商品開発にも取り組んでいる。障がい者就労の視点から個性を活かす共生社会を目指す「( 一社)Toghetherland」理事。


シンプルで美しいおもちゃ

ーーまずは自己紹介をお願いします。

高柳:私はディスカッション好きが高じて大学在籍中の2006年に起業しました。念願叶って、2015年にDコートというディスカッションスクールを開校しました。

 

原田:私は「つみきや」というおもちゃ屋を作った創業者の息子です。大学を卒業してしばらく会社員をしていましたが、会社員を経験するうちに、本当に心から好きで、ためになる仕事がしたいと思うようになりました。

 

ふと実家の仕事を考えてみたときに、ここなら胸を張って「良い」と言えると思い、2015年に「つみきや」の仕事に挑戦するため福岡に帰ってきました。

 

高柳:お父様が、つみきやを創業されたきっかけは何だったんですか?

 

原田:私は、2人兄弟の次男です。兄が生まれたとき、父はおもちゃを探したのですが、なかなか父のお目にかなうおもちゃが見つかりませんでした。当時、子ども向けのおもちゃは、非常に幼稚なものが多かったみたいです。

 

ある日、父は東京を訪れて、綺麗なおもちゃに出会いました。このおもちゃは大人でも美しいと思えるようなデザインであったり、子どもを子ども扱いしていないコンセプトであったり、シンプルさを感じたようです。そのおもちゃを持ってこようと思ったのが創業のきっかけです。

 

高柳:お父様がこのおもちゃの美しさに出会わなければ、「つみきや」は誕生しなかったかもしれないという伝説のおもちゃですね(笑)

 

子ども扱いしないことは大事なことだと思います。

 

テキトーな物か、好きな物か

原田:どのような食事を用意するかというときに、無農薬野菜を使うとか、特に気にしないとか色々な考え方がありますが、おもちゃも含めて、すべてが自分の価値観を伝える手段になりうると思います。

 

おもちゃに関していうと、テキトーな物をあげようと思うのか、自分が好きだからあげたいと思うのかでは、子どもの受け取り方が変わってくると思います。

 

高柳:保護者の方が自分で良いと思うものを子どもにあげようとすると、おもちゃ選びも自然にできそうですね。

 

原田:「つみきや」で取り扱っているおもちゃは、自分から働きかけることで楽しくなる物です。要するに、渡されたときに遊び方が分からなくて分かりづらいものです。そこで親御さんが最初に遊んであげることや一緒にやってみるというステップがどうしても必要になります。

 

もし、自分が良いと思わないつまらないものだったら、遊ぶのがつらく感じるはずです。

 

高柳:確かに。つまらないのに一緒に遊ばないといけないわけですからね。

 

楽しく遊んでいるのであればそれでいい

ーー近年、知育玩具がブームになっていますが、おもちゃ業界自体に変化を感じますか?

 

原田:大きな流れでいうと少子化があります。値段の張るおもちゃを売っているところは、むしろお客さまの数が増えています。

 

一昔前は、裕福な方だけが購入していたものが、現在は子供の数が減った分だけシックスポケットといった現象が起こり、購入する人が増えてきました。この流れからかは分からないですが、「知育」というキーワードを最近よく耳にするようになりました。テレビや雑誌で「脳の発達に良いと聞いて買いに来た」といったお客さんの声もあります。

 

「脳の発達」というのは漠然していますが、脳の発達を気にして買いに来られる傾向が強くなってきているように感じます。

 

高柳:1人遊びのおもちゃに集中する子どもと、みんなで遊ぶゲームのほうが好きな子どもがいます。大人から「脳の発達に良いもの」として与えたい気持ちも分かりますが、本人の個性もあるので、一概に「知育」という言葉を使うのは難しいと思います。

 

原田:そうですね。たとえば、数字にまつわるゲームで遊び、結果として数学が得意になるということはありえます。ただ、その入り口は「楽しい」とか「好き」という気持ちであって、これを周りの人がコントロールすることはなかなか難しいものがあります。

 

「うちの子どもは1つのことにしか興味がない」という相談をよく聞きます。ただ、今向いている興味から、引き離すということは難しいです。他のおもちゃを与えたところで全く興味を示さない可能性が高いです。子どもの興味が今どこに向いているのかをしっかり観察することが大事だと思います。

 

高柳:話すとか遊ぶといった行為は、その人たちの意欲が自然と起こるところからスタートすることが大切だと私は思っています。

 

原田:子どもの興味や楽しいといったポジティブな気持ちがなければ、育ちにもつながらないのではないでしょうか。

 

高柳:大人でも、指定された遊びが楽しくなかったら遊びたくないですよね。遊びは自分の欲求がそのまま出てくるところだと思います。

 

原田:「子どもがルール通りに遊ばない」という相談を受けることがあります。

 

たとえば、AくんとBくんが違うルールで遊んでいるのなら統一させたほうがいいでしょう。ただ、ルールブックに書いている通りにやらないこと自体は、本人たちが楽しく遊んでいるのであればそれはそれでいいのではないかと思います。

 

日本人は駆け引きが苦手?

高柳:Dコートのプログラムをつくるときに、ヨーロッパの書籍やプログラムを参考にすることも多いです。日本のおもちゃは1人で黙々と遊ぶものが多く、ヨーロッパでは駆け引きをする遊びが多いイメージを持っています。

 

原田:ヨーロッパのゲームの種類は、とても多いです。年間何千という新しいゲームが登場する土壌ができ上がっています。日本でもここ数年のブームによって裾野は広がっていますが、まだ少ないです。

 

ヨーロッパのゲームも協力型は多いです。ただ、ヨーロッパの協力型ゲームは、入ってきてもすぐ廃盤になってしまいます。

 

協力型ゲームは仲間同士で駆け引きがあります。ヨーロッパでは駆け引きのような楽しみを追求しようとしますが、日本では駆け引きが広く受け入れられていない傾向があります。

 

高柳:ヨーロッパと日本では、人種、宗教だけでなく、コミュニケーションのスタイルも異なります。さまざまな文化が共存するヨーロッパでは、駆け引きやお互いの主張を交換する必要性があるのでしょう。

 

原田:ディスカッションの場においても、強く主張することを攻撃と受け止めるようなことがあると思います。ゲームに限らず、相手の立場にそぐわない意見を言わなければならない場面があります。このようなことに関して、日本はかなりデリケートかも知れません。

 

高柳:日本の場合は、みんなで協力するスタイルが子どもたちに好まれているような気がします。

 

原田:小学生同士でも気を遣いますからね(笑)

 

おもちゃ選びはメッセージ

高柳:つみきやさんが対象とされているのは、0〜10歳前後の子どもがメインですよね。おもちゃについて保護者がどのようなことを考えているのか教えていただけますか?

 

原田:傾向としては、「子どもを伸び伸びさせたい」という気持ちの親御さんが多くなってきているように感じます。自分で選ぶことが大事だと思っている親御さんは多いと思います。

 

たとえば、1才児を連れた親御さんが買い物に来るとします。1才児は話すことができないので、おもちゃを目の前に持って行き興味があるか確認し、子どもの反応を見ます。子どもが自分で選んだということを大事にしたいのだと思いますが、子どもの反応が興味を持っているメッセージかどうかは分かりません。

 

1才児は少し早すぎると思うので、親御さんの価値観で選んであげるべきだと思います。アプローチの方法は色々ありますが、親御さんから子どもに対するメッセージを伝えることが大事だと思います。

 

高柳:すべてが子ども中心になってしまうより、保護者の考えを伝えることも大切ですね。まずは、保護者が、自分自身の考えや価値観を知らなければならないと思います。

 

原田:確かに、1才児や2才児に判断を委ねてしまうのは危険だと思います。

 

高柳:おもちゃ選びも、保護者からの「メッセージ」と捉えると選びやすくなりますね。

 

つみきや : https://tsumikiya.jp/

※後編は、2019年9月27日(金)に公開されます。


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